臓器提供を考えるときに知っておきたい基礎知識

臓器提供とは自分の体の選択肢の1つです。自分の臓器を提供し、移植を必要としている難治病患者の治療に役立てる善意による命のバトンです。

「臓器提供をするorしない」の決断をしなければならないタイミングは、突然の深い悲しみと動揺の中でやってきます。いつ、誰がその決断が必要となるかは予測できません。


ここでは、臓器提供について考える時に知っておきたい基礎知識をまとめたいと思います。



「脳死」と「心停止」「生体」/提供できる臓器の違い

突然の事故や病気で最善の救命治療をしても「救命が不可能である」と診断され「脳死」とされる状態、もしくは「心停止」となった死後、またはご親族が臓器移植をしないと生命にかかわる状態になった時に臓器提供の決断は必要となります。


「脳死」とは

脳幹を含む、脳全体の機能が失われた状態で心臓を動かす脳が傷ついたり、全く働かなくなってしまい回復することがない状態で、多くは数日以内に心臓が止まってしまいます。(※回復の可能性がある植物状態とは異なります。)臓器を提供する場合、家族の承諾を踏まえて法律に基づいた厳格な脳死判定を2回行います。


「心停止」とは

心臓の機能が停止してしまった状態や呼吸が止まってしまうことです。医師が心・呼吸・脈拍の停止と瞳孔散大を確認して死亡宣告することで、法的に死亡が確定します。


「生体」とは

生体臓器移植は、生きている健康な方からの臓器提供による生体移植のことです。しかし、生体移植はドナーの手術そのものによる身体的リスクや人間関係への影響などのリスクもないとは言えません。


【脳死下で提供できる臓器】

心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球


【心停止死後に提供できる臓器】

腎臓、膵臓、眼球


【生体から提供できる臓器】

肺、肝臓、腎臓、小腸などは部分移植が可能(腎臓は2つあるうちの1つ)

※ 生体臓器移植の場合、肝臓、腎臓、小腸は1人のドナー、肺の場合には2人のドナーが必要なことが多い


※Point /欧米をはじめとする世界のほとんどの国では「脳死は人の死」とされていますが、日本では臓器提供を希望する場合のみに脳死判定が行われることとなっています。本人の意思やご家族の希望に関わらず、機械や投薬によって心臓が止まるまで望まぬ延命をされるケースもある為、臓器提供の意思にかかわらず希望した場合には脳死判定ができるように見直すべきとの声も。さらに、臓器提供を決断したご家族や医療者の精神的負担となることも問題となっています。

また、生体移植は健康なドナーへの身体的リスクを伴うため、本来は生体移植より死体移植が移植医療のあるべき姿ですが、日本では脳死・心停止死後の臓器提供数が少ない為、欧米に比べ生体移植の割合が非常に高くなっています。



ここからは臓器提供意思表示に関わる死後の臓器提供についてご説明します。



◆臓器提供は誰でもできるのか

臓器提供をするには必要な条件があります。まず、臓器提供の大前提として

・本人が臓器提供をする意思表示をしていて、ご家族の承諾がある場合

・本人の臓器提供の意思が不明な場合で提供拒否の意思表示がない場合には、ご家族の承諾がある場合

本人やご家族の意思を尊重することが法律で定められており、強制や誘導があってはなりません。



この大前提をクリアしたうえに、実際に臓器提供できるかは、様々な条件の中で決まります。


死後の臓器提供の場合

・事故や病気で運ばれた病院が、ガイドライン上で定められた臓器提供施設(約900病院)で必要な体制が整備されていること

・脳死、または心臓停止死とされうる状態であること

・がんや全身性の感染症で亡くなられた方は提供できない

・提供臓器に感染症やがんなどがなく状態良好なこと などの条件があります。


また、小児の場合には虐待を受けていない事も条件となる為、虐待の有無の判定も行われます。脳死判定については6歳以上は成人と同じ条件が適用されますが、6歳未満については条件が若干異なり慎重な対応がされています。


※Point /施設の問題で脳死下での臓器提供ができない場合でも、心臓が停止した死後の提供が可能な場合もあります。心臓が停止した死後の提供は、必要な体制が整備されている高度な医療を行える施設ならどこでもできます。また、小児の臓器提供の条件にある「虐待を受けていない事」という条件について、判断が非常に難しく議論をされているところです。



◆臓器提供後の体はどうなるのか

傷の大きさは摘出臓器にもよりますが、喉元から1本入ります。通常の手術傷と同様に傷口はきれいに縫い合わせ、清潔なガーゼで覆われるため、外から見てもわかりません。また、骨格などの組織が残っているため、お腹がへこむなど見た目に大きな変化はありません。体内に詰め物などもされません。

3~5時間の摘出手術後はお身体をきれいに整えられ、すぐにご家族の元に戻り一緒に退院することができます。



◆臓器提供意思表示について

意思表示の制限

臓器提供意思表示は15才から可能です。年齢の上限はない為、どなたでも記入できます。

臓器提供適応基準では、各臓器によって望ましいとされる年齢はあります。しかし、その年齢を越えた方でも、医学的に提供が可能である場合があります。


※Point /臓器を移植患者(レシピエント)に移植する前には必ず医学的に提供可能な臓器か検査をし判断されます。服薬状況・年齢・持病の有無などに関わらず意思表示が可能です。


「臓器提供意思表示の特記欄」を知っていますか?

健康保険証・運転免許証・マイナンバーカード・意思表示カード・インターネットによる意思登録での意思表示に特記欄の()があります。

・皮膚、心臓弁、血管、骨などの組織を提供してもいい方は、「すべて」あるいは「皮膚」「心臓弁」「血管」「骨」などと記入できます。

※皮膚移植は広範囲にやけどを負った方などの救命のために移植され、美容目的などに使われることはありません。(日本スキンバンクネットワークパンフレットより)

・配偶者や子ども・父母が移植希望登録をしており、医学的な条件を満たしている場合に臓器を優先的に提供する意思を表示することができます。

※自殺した方からの優先提供は不可など、他にも厳しい条件があります


意志表示カード所持者の治療

「臓器提供をする」との意志表示に関わらず、救命治療は当人の命を救うことを第一に考えて行われます。臓器提供を優先されることはありません。


臓器提供にかかる費用

臓器提供する際、検査費用など臓器提供者(ドナー)が費用負担することはありません。

※善意による提供なので葬儀の費用や謝礼が支払われることもありません


※Point /日本での臓器移植の為の臓器提供にはお金のやり取りがありません。これは臓器売買になってしまうからです。また勝手に臓器を奪うこともありません。日本では臓器売買や臓器の略奪は法律で禁止されています。


プライバシーの扱い

提供者(ドナー)と移植を受けた人(レシピエント)はプライバシーを守るため、お互いが誰なのかを知ることはできません。

※Point /レシピエントが移植を受けられたおかげで元気になったことへのお礼の手紙(サンクスレター)は、お互いのプライバシーを守ったうえでドナー家族に日本臓器移植ネットワークを通して渡すことができます。



◆臓器提供の流れ

臓器提供をするかどうかは移植コーディネーターに詳しく説明を受けたうえで決めることができます。決して臓器提供を勧められたりお願いされることはありません。

また、説明を聞いたからと言って必ず提供しないといけないわけではありません。臓器摘出の直前でも取りやめることが可能です。


脳死・心臓死による臓器提供の場合の流れは以下の通りです。

各病院の基準で救命が叶わないと判断された際にご家族へ「臓器提供という選択肢があること」の提示があり、ご家族が話を聞いてみたいという場合に日本臓器移植ネットワークの移植コーディネーターが派遣されます。



◆臓器提供意思表示の方法

臓器提供は「臓器の移植に関する法律(臓器移植法)」等の法律に則り公平・公正に行われるため「本人の意思」があることや「ご家族の意思」が尊重されます。


本人が意思表示をしていない場合には、ご家族が臓器提供の決断をすることになります。また、本人に提供の意思があってもご家族の了承がない場合には臓器提供不可となる為、保険証や運転免許証、マイナンバーカード、インターネット登録(https://www2.jotnw.or.jp/)

で意思表示をし、家族とも話し合っておきましょう。


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